「関内ホール」はおしゃれな馬車道通り沿いにあって、開場前に観客が外でぶらぶら待っていた。主催者の影響かもしれないが(今回は労音主催)、客層は平均60歳代半ば?くらいと思われた。まあ平均的ジャズコンサート観客年齢ではある。ただし女性が半数近くもいた感じで、その多さに驚いたが、これは若い沖仁のファン層なのか? ホールの収容人員は千人ほどで、小さすぎず、大きすぎずという、この種のライヴには最適なサイズだと思う。コンサート後の感想を一言で言えば、音楽的に素晴らしいコンサートだったと思う。比較的おとなしかった観客が、フィナーレで二人へ示した反応がそれをよく表していた。私も、名人同士の2時間の白熱したギターライヴを楽しみ、心ゆくまで演奏を堪能した。ヴァーチャルではなく、広い実空間を生楽器のサウンドが埋め尽くすという快感も久々に味わった。基本的に沖仁のフラメンコ・ギターに、どんな音楽にも融通無碍に対応できる渡辺香津美が合わせることになるので、当然だが、音楽全体はジャズよりもスパニッシュなムードに統合される。しかし渡辺香津美のジャンルを超越した相変わらずのギター・ヴァーチュオーソぶりと、今や成熟した余裕を感じさせる沖仁の、非常に洗練された「コンテンポラリー・スパニッシュギター」とでも呼ぶべきモダンな演奏が見事だった。
渡辺香津美の存在を知ったのは、私がジャズを聴き始めた1970年前後だ。それ以来50年が経ち、今年で70歳になるという今やジャズギター界の大御所だが、その活躍が本格化したのは、70年代後半から80年代にかけてのエレクトリックギターによるフュージョン時代だ。アコースティックギターに本気で取り組み始めたのは、たぶん『おやつ』(1994年)をリリースした頃からだと思う(当日演奏した「クレオパトラの夢」と「ネコビタンX」はこのアルバムに収録されている)。既に世界的に有名になっていたエレクトリックギターによるジャズ、フュージョン、ロック、ポップス界での活動のみならず、この頃からアコースティックギターを使ったクラシカルな音楽にも挑戦し始めた。そのアコースティックギターによる渡辺香津美ライヴを見たのは、90年代に故・佐藤正美とデュオで共演したブラジル音楽のライヴだったので(これも素晴らしかった)、今回はそれ以来のライヴということになる。一方、渡辺香津美がプロデビューした時代に生まれ、今年デビュー15年になる49歳の沖仁は、スペインでの修行時代以前にも世界各地で音楽修行を積んでおり、単なるフラメンコのギタリストとは違う多彩な音楽的バックグラウンドを持った人だ。私が行ったライヴ・コンサートは、たしか10年以上前の「東京オペラシティ」でのソロ・コンサート以来だ(しかし時の経つのは早い…)。沖仁氏ツイッターより |
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本公演は、もちろんジャズっぽくもあるフラメンコがメインのギター音楽であり、ボーダーレスに世界の音楽を知る、本物のジャズとフラメンコの日本人ギター巨匠二人が、信じがたい技で自在に弾きまくるという素晴らしくハイレベルなライヴ音楽だ。即興演奏の部分も多いはずなので、たぶん2度と同じサウンドは聞けない音楽でもある。だが不思議なのは、聴いている客が中高年ばかりで、会場に若者の姿がほとんど見当たらないことだった。公演後感じたのは、「いったい、今の若者は何を聴いているのだろうか?」という素朴な疑問だった(大きなお世話かもしれないが)。先の短い年寄りが聞いているだけでは実にもったいない、滅多に聞けない創造的音楽なのに、とつくづく思う。コロナもほぼ収まった今年は、二人ともそれぞれ単独のライブ公演を数多くやる予定らしいので、老若男女問わず、素晴らしいギターの生演奏をぜひ聴きに行ってはどうかと思う。家の中で、YouTubeでチマチマ聴くのとは次元の違う音楽体験ができます。