ページ

2017/06/17

リー・コニッツを聴く #8:ウィズ・ストリングス

リー・コニッツは自伝でも述べているように、特にバルトークなどの20世紀クラシック音楽を好み、また造詣も深い。そういう嗜好もあって、若い時からストリングスと共演するアルバムを何作かリリースしてきた。幼なじみで、シカゴ時代に一緒にトリスターノに師事していたヴァルブ・トロンボーン奏者兼アレンジャーのビル・ラッソ Bill Russo (1928-2003) と親しく、1952年にスタン・ケントン楽団にコニッツを招いたのもラッソだった。Verve時代に、そのラッソ(作・編曲・指揮)と組んで作った初めてのウィズ・ストリングス作品が「アン・イメージ An Image」(1958)である。当時はガンサー・シュラー等が中心となり、現代音楽とジャズを融合した“サード・ストリーム・ミュージック”が流行していた時代でもあり、このアルバムもチャーリー・パーカーの「ウィズ・ストリングス」的な、添え物的ストリングスとは異なるアレンジメントで、ジャズとクラシックとの融合を試みた作品だ。モンクの<ラウンド・ミッドナイト>他スタンダード3曲と、ラッソの自作4曲を演奏していて、ビリー・バウアーもギターで参加している。コニッツの繊細極まりないアルトサウンドは、当時から確かにクラシックの弦楽器との馴染みも良く、ラッソのモダンなアレンジメントとも非常によく調和した作品に仕上がっている。

ドイツのEnjaレーベル創始者で、コニッツのファンだったプロデューサーのマティアス・ウィンケルマンと組んで1996年に制作したアルバムが「ストリングス・フォー・ホリデイ Strings for Holiday」だ。ビリー・ホリデイが好きだったコニッツが、ストリングス・セクステット(2vln, 2viola, 2cello)をバックにした漂うようなワン・ホーンで彼女に捧げた美しい作品である。アレンジはダニエル・シュナイダーで、マイケル・フォーマネクがベース、コニッツとも親しいマット・ウィルソンがドラムスで参加している。曲目はいずれもホリデイの愛唱曲で、ジャズファンならどれも聞き馴染んだ名曲ばかりである。当然ながらどの演奏も、コニッツのアイドルであり、ホリデイとも親しかったレスター・ヤングを彷彿とさせるもので、柔らかで流れるようなメロディに、背後で現代的にアレンジされたストリングスが美しくからんでいる。難解ではないので、ゆったりとイージーリスニング的に聴いても十分楽しめるが、そこはコニッツなので、じっくり耳を澄ませば、インプロヴァイズされたそのメロディも、音色も、リズムも深みが違うことがわかる。90年代のコニッツは二度目の全盛期とも言えるような充実した作品が多く、このアルバムからも好調だったその時期のコニッツのスピリットが感じられる。

Play French Impressionist Music(2000) というアルバムは、リー・コニッツによるライナーノーツの説明だと、そもそもは彼のアルトサックスと弦楽四重奏を組み合わせるという企画を、日本のヴィーナス・レコードの原哲夫氏が発案したらしい。そこでアレンジャーとして、若いオハッド・タルマー Ohad Talmor (1970-) をコニッツが指名したものの、ヴィーナス側の事情で実現しなかった。だが、その構想に基づいて作業を続けていたタルマーが、ライヴ演奏での試みを経て最終的にPalmettoレーベルから2000年にリリースしたのがこのアルバムだということだ。コンセプトは、タルマーがフランス印象主義派の音楽(フォーレ、サティ、ラヴェル、ドビュッシーなどのピアノ・ソロやデュオ曲)を弦楽四重奏向けにクラシック的にアレンジし、その上にコニッツのアルトサックスをかぶせるという、ある意味50年代サード・ストリームの現代版の趣の音楽である。演奏は譜面通りではなく、ストリングス側(アクシス・ストリングス・カルテット)もコニッツ側も部分的にインプロヴァイズしており、それをいかに破綻なく譜面通り演奏しているように感じさせるか、といういささか屈折した、しかしある種挑戦的な楽想に基づいている。若いアレンジャーによるジャズとクラシックの不思議な融合の美を聴くこと、さらに弦楽四重奏の上で浮遊するコニッツのメロディ・ラインと音色を楽しみ、クラシック音楽の土台の上でインプロヴァイズして(いないように聞かせながら)どこまでジャズ的な表現が可能かというコンセプトを感じ取れるか、そこを聴くのがこのアルバムの楽しみ方だろう。